予期せぬ別れは突然やってきた。1998年11月1日の天皇賞・秋。多くの人たちを魅了してきたサイレンススズカがこの世を去った。当時を知る読者なら、府中に詰めかけた観衆の大歓声が悲鳴に変わった瞬間をご記憶の方も多いのではないか。あれから今年で丸20年を迎える。記録に残るか、それとも記憶に残るか。スポーツ界ではよく使われるこの言葉の両方で、人々の心の中に深く刻まれた名馬はそういないだろう。G1での戦績は1勝ながら、「影さえ踏めない」脅威のスピードで競馬ファンらを熱狂させた「音速の貴公子」。だが、すべてが順風に来たわけではない。「遅れてきた大物」と評され、わずか5年の生涯は一方で幾度もの困難を乗り越えてきた歴史でもあった。いまここに、改めてターフを駆け抜けた「稀代の逃げ馬」の短い生涯を振り返ってみたい。(文中敬称略)
吉中 由紀
Yoshinaka Yuki
東京都出身。慶応義塾大学卒業。
日之出出版編集部を経て、フリーライターに。
サブカルチャー、食品、生活全般、企業情報などの分野を扱い、別冊宝島、日本経済新聞、週刊文春、文藝春秋、フォーブスJAPANなどで執筆。
主な著書は、「成分表でわかる買いたい化粧品」(永岡書店)、「危険食品読本」「間違いだらけの安全生活」(文春文庫PLUS)など。
趣味は観劇。競馬は馬の走る姿に惹かれる。
写真提供:下野雄規(第1、3、4、6章)、高橋正和(第2、5章)
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