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出走全馬が“サンデーサイレンス持ち”だった2011年のダービー

出走全馬が“サンデーサイレンス持ち”だった2011年のダービー

第1章

出走全馬が“サンデーサイレンス持ち”だった2011年のダービー

思わず応援したくなる!マイナー血統の魅力と“今”

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 2011年の日本ダービーが象徴的だった。のちの三冠馬・オルフェーヴルが制したこの一戦、出走全頭が“サンデーサイレンスの孫”。名種牡馬・サンデーサイレンスの存在感を改めて印象づける一戦だった。ここまで極端になることは稀とはいえ、近年の大レースではしばしばこれに近いことが起きている。

 だからこそ、主流ではない血統の種牡馬や、サンデーサイレンスの仔の中でも、種付け頭数も多くなくランキングでも上位ではない種牡馬から大物が出現したりすると、人目を引き、応援の声も高まる。そして実際にそういった馬が実際に現れてくれるのが、競馬の魅力の一つだろう。

 もちろん、血統がマイナーであれば無条件に人気馬になるという訳でもなく、その馬が強さと魅力を兼ね備えているからこそではあるが、血統背景というものは、競走馬の人気を後押しする大きな要因ではある。

 ここでは、そういった血統背景を持つ馬たちの活躍にスポットライトを当てていく。

 明確に定義づけることが難しい「マイナー血統」という言葉については、ニュアンスを比較的自由に取らせてもらった。「実は母系が良血」「海外ではこの馬の産駒は走っている」「父(もしくは母)の競走成績自体は優れている」など、「これはマイナー血統ではない」という理由は往々にしてどの馬にもあるのと同時に、「これはマイナー血統と言っていいのではないか」という感覚も、競馬ファンの中である程度共通しているものがあると信じている。それによって大きな違和感は生まれないだろう。また「マイナー血統」と「マイナー種牡馬」もそれぞれ微妙にその意味するところが違う言葉だが、両者ひっくるめて書かせていただこうと思う。それ故、時折「マイナー判定」に異議があることも出てくるかもしれないが、そこはお許し願いたい。

2011年の日本ダービー馬はオルフェーヴル。父はステイゴールドで、その父はサンデーサイレンス(撮影:下野雄規)

■2017年のGIはマイナー血統には厳しい結果に

 2011年の日本ダービーの出走全頭が“サンデーサイレンスの孫”だったことは既に書いた。もう少し詳細に見ていくと、父の父がサンデーサイレンスである馬、つまりサンデーサイレンス直系の孫が16頭と、そのほとんどを占めていた。一方、母の父にサンデーサイレンスを持つ馬はわずか2頭だった。

 それから6年、昨2017年を振り返ってみる。ダート・障害を含む全GI・26競走の優勝馬にサンデーサイレンスがどのように関わっているか調べてみると、まずサンデーサイレンスを父に持つ種牡馬の仔だけで、

・ブラックタイド=4勝
・ディープインパクト=3勝
・ステイゴールド=3勝
・ハーツクライ=2勝
・ゴールドアリュール=2勝
・ダイワメジャー=1勝

 と、直系の孫が全GIの半数を超える15勝を叩き出している。どの種牡馬もサンデーサイレンス産駒の中でもランク上位に位置する馬だ。ブラックタイドも、GI・4勝すべてをキタサンブラック1頭が叩き出したことを加味しても充分上位と言える。

2017年年度代表馬のキタサンブラック。父はあのディープインパクトの兄・ブラックタイドで、その父はやはりサンデーサイレンス(撮影:下野雄規)

 そして「母父」がサンデーサイレンスという2頭を加えると、65%超が“サンデーサイレンスの孫”。さらにキセキ、ディアドラ、アエロリットの3頭は「母父父」がサンデーサイレンス、高松宮記念を勝利したセイウンコウセイは「父母父」がサンデーサイレンスなので、全GIホースの実に73%がサンデーサイレンスの血を持っていたのが2017年だった。ちなみに、本稿が公開された時点で終了している2018年のGIの勝ち馬4頭も“サンデーサイレンス持ち”だ。2011年からさらにサンデーサイレンスの存在感が増しているとすら言える。

 一方、サンデーサイレンスの血を持っていないのはわずか“4頭”。

エリザベス女王杯:モズカッチャン
宝塚記念:サトノクラウン
日本ダービー:レイデオロ
オークス:ソウルスターリング

 この4頭はサンデーサイレンスの血を持たない、昨今の大レースの勝ち馬では珍しくなった血統。

 とは言えこの4頭にマイナー血統と呼べるような馬がいたかと言えば、そうではない。レイデオロの父は日本を代表する種牡馬であるキングカメハメハ。ソウルスターリングにいたっては父が英国の怪物フランケル、かつ母は仏オークス馬スタセリタと、むしろ“世界的良血”だ。

 モズカッチャンの父ハービンジャーは競走生活においては歴史的名馬の一頭だが、産駒のデビューから数年間はGI馬を出せておらず、その父のDansiliも日本で目立った産駒成績を残せていなかった。そのため、こと日本においては少なくとも主流とは言えない1頭だったが、2017年秋、このモズカッチャンを含めて一気にGI・3勝を挙げて名実ともにトップ種牡馬となった。

 サトノクラウンだけは微妙なところがある。父のMarjuは英GI馬だが、サトノクラウン以前にほとんど産駒が日本で走っておらず、一番目立つところで香港馬・インディジェナスが1999年のジャパンCに参戦し2着になったことくらい。日本国内ではほとんど見ることのない、確実に珍しい血統だが、残念なことに(?)サトノクラウンは英GI馬のライトニングパールを全姉に持っており、こちらも良血と言わざるを得ない血統背景となっている。この馬のファンも「マイナー血統だから」という理由でファンになった人は少数派だろう。

 マイナー血統を応援してしまう判官贔屓なファンにとって、2017年はGIという最高峰の舞台では喜びを味わうことのできなかった1年となった。しかし、もう少し視野を広げてみると「思わず応援」してしまうような馬たちが印象的な活躍をしていたことが思い出される。

 キーワードは「夏」。

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