記憶に新しい2017年の天皇賞(春)から振り返ってみよう。前評判では5歳のキタサンブラックと4歳のサトノダイヤモンドの二強対決の構図だった。
キタサンブラックは前年の春から武豊とコンビを組み、古馬中長距離路線を引っ張ってきた。特に秋の3戦は、京都大賞典1着→ジャパンカップ1着→有馬記念はクビ差2着というほとんど完璧に近い成績を残し、年度代表馬に輝いた。2017年になっても初戦の大阪杯(この年からG1昇格)を快勝し、現役最強馬の座を盤石にしつつあった。
一方のサトノダイヤモンドはデビュー戦からルメールが手綱を取り続け、前年のクラシック三冠を3着→2着→1着と尻上がりの成績を残すとその勢いで有馬記念ではキタサンブラックを破った。
2017年になっても前哨戦の阪神大賞典を圧巻のパフォーマンスで勝ち、こちらも万全の状態で天皇賞に参戦してきた。
有馬記念の激闘から5カ月、早くも訪れた再戦にファンは期待に胸をふくらませた。現役最強馬の座をかけた一騎討ちになるだろうと思われていた。実際、単勝の人気もキタサンブラックが2.2倍、サトノダイヤモンドが2.5倍で抜けており、二強を表していた。前年秋から負けなしで、直接対決でも勝っているサトノダイヤモンドが2番人気に甘んじたのは、おそらく枠順の影響が大きいだろう。
キタサンブラックの2枠3番に対して、サトノダイヤモンドは8枠15番。3200mの長丁場、終始外めを走らされる不利を多くのファンは懸念した。
レースは、長距離戦にしてはめずらしいほどのハイペースになった。「逃げ」で良績を残してきたヤマカツライデンが、好スタートからハナをたたくと軽快に11秒台のラップをきざみ、最初の1000mを58秒3で通過した。
キタサンブラックと武は大きく離れた2番手を追走し、実質的にマイペースで逃げている態勢を築いた。15番枠のサトノダイヤモンドとルメールは内の各馬の様子を見つつ、中団の外に構えた。3番人気のシャケトラと4番人気のシュヴァルグランはその2頭の間の位置取りで、虎視眈々と一角崩しを狙っていた。
レース中盤、ペースはさすがに落ち着いてきたが、それでも2000m通過は1分59秒7と速く、ヤマカツライデンの大逃げは続いていた。
向正面から3コーナーにかけて、2番手のキタサンブラックが徐々に差を詰め、4コーナー手前ではヤマカツライデンを射程にとらえていた。それに呼応するようにサトノダイヤモンド、シュヴァルグランもじりじりと迫ってきた。4コーナーを抜ける頃にはキタサンブラックが堂々と先頭に立ち、後続を突き離し始めた。大阪杯と同じように、早めのスパートから押し切る戦法だ。
直線、サトノダイヤモンドとシュヴァルグランが必死に前を追うが、このハイペースを追走してきたことも影響したのか、いつものような末脚を発揮できず、先頭のキタサンブラックとの差はなかなか詰まらない。最後は各馬がほとんど同じ脚色になり、なだれ込むようにキタサンブラックが先頭でゴールイン。好枠から終始好位置で立ち回ったシュヴァルグランが2着に入り、サトノダイヤモンドは3着に終わった。
2017年:天皇賞(春)
優勝タイムの3分12秒5は、従来の記録を1秒近くも更新する世界レコード。連覇を達成し、最大のライバルであるサトノダイヤモンドにリベンジを果たしたキタサンブラックが、名実ともに現役最強馬であることを証明した。鞍上の武豊は天皇賞(春)8勝目で、自らの最多勝記録を更新した。
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