目次

最強馬の圧倒的な勝利/2006年

最強馬の圧倒的な勝利/2006年

第2章

最強馬の圧倒的な勝利/2006年

天皇賞(春) 平成の名勝負

目次

 レコードタイムこそ、先述のキタサンブラックに塗り替えられてしまったが、2006年のディープインパクトの盾制覇は圧倒的かつ衝撃的だった。

 2005年にシンボリルドルフ以来の「無敗の三冠馬」になったディープインパクトは、古馬となった2006年は凱旋門賞などの海外レースへの挑戦が期待されていた。当然、国内のレースでは負けられない。

 古馬となってからの初戦、3月の阪神大賞典は3馬身半差で楽勝した。

 そして迎えた天皇賞(春)。デビュー以来最少馬体重の438キロ。究極の仕上げと呼ぶにふさわしい、研ぎ澄まされた馬体。単勝オッズは1.1倍。不安要素はなにもなかった。

 レースではいつものように、後方の位置取りとなった。いつ、どこで仕掛け、どのような勝ち方をするのか。多くのファンや関係者は、4コーナーの下り坂から徐々に進出し、直線で突き抜ける、そんなレースを想像していただろう。

 しかし、鞍上の武豊はまったくちがう選択をした。なんと、3コーナーから抜群の手応えで上がり始めると、4コーナー手前では全馬をまくりきって先頭に立ち、直線入り口では独走状態になった。2番人気のリンカーンが必死に猛追するが、影さえ踏めなかった。

 まさに独り舞台、観客の度肝を抜く圧勝劇。優勝タイムは3分13秒4。従来の記録を1秒も更新する驚異的なレコードだった。レースの上り3ハロンのタイムは33秒5。これはもちろん、ディープ自身が記録したものである。

 他の馬がディープに勝つためには、これより速い末脚を、2600mを走ったあとに出さなければならなかった。物理的に「不可能」である。もし、競走馬が人間のように考え、人間のようなメンタルを持っていたとしたら、ディープに負けた16頭は心が折れ、レース直後に自ら引退を申し出ていたかもしれない。

 それくらい、圧倒的な勝利だった。レース後、武豊は
「世界にこれ以上強い馬がいるのかなと、正直思いますよね」と語った。

 ディープインパクトはこの天皇賞のあと、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念を勝ち、歴代最多タイのG1 7勝馬となった。凱旋門賞こそ3着入線ののち失格となり競馬ファンの夢をかなえることはできなかったが、日本競馬史上、「完璧なサラブレッド」にもっとも近づいた馬であることは間違いないだろう。

第133回:天皇賞(春)
(扉写真:'06天皇賞(春) / ディープインパクト)

© Net Dreamers Co., Ltd.