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中央競馬では3月に輝く北極星

中央競馬では3月に輝く北極星

第2章

中央競馬では3月に輝く北極星

競馬で学ぶ春の星空

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 前章ではアンタレスS、ならびにさそり座のアンタレスの話をさせてもらった。日本においてはもっとも数多くの一等星が観測できる「冬」の星空からは、競馬のレース名の由来である天体の話も続々とできたのだが、いかんせん春季はなかなか難しい。一応、前章で書いたように、春にもまだまだ早い時間には西の空に沈む冬の星々を見ることはできるのだが、それでは前回の原稿の繰り返しになってしまう。ということで、4月に行われるアンタレスSなら、一般的には「夏」であるさそり座ではあるがちょうどいいだろうと思い、この星から原稿をスタートさせてもらった。

 今回の主題の北極星、あるいはポラリスも後述の通り春に限った天体ではないのだが、中央競馬で「ポラリスS」が3月にある以上、ここが最適だろう。ちなみに大井競馬場で長年行われている「北極星賞」も4月開催だが1997年には8月の施行だった。本来北極星はこれから書くように、季節感にその位置づけを左右されない星であるのだが、なぜだか3・4月と春に北極星が配置される傾向があるようだ。

右に見える北斗七星の先端を5倍伸ばした先にある北極星(写真:アフロ)

■3月のまま“動かない”ポラリスS

「春」と「北極星」と「ポラリスS」の話をする前に、まずは小中学校の理科の授業で習ったようなことを一度おさらいしてみたい。

 それぞれの星は日周運動によって1日に360度、つまり1時間で15度、東から西に向かって動いていく。要するに太陽と同じ動きである。空が暗い時間を仮に1日8時間としても、1日の中でも120度と見た目上、かなりの距離を移動している。前章で「星空というものは意外と前後の季節の状態を見ることが可能」と書いたのはこれが理由。

 そして星はまた、年周運動によって1ヶ月に約30度、やはり同時刻における位置が東から西に向かって動いていく。こちらは当然日周運動と比べて緩やかな移動なので、実感はしづらいが、ふと「あの星もだいぶ西に沈んだなあ」と気が付く瞬間は、なかなか感慨深いものがある。

「○○星は△△月に見頃」「○○座は△△の星座」のような言い方がされるときは、概ねのケースにおいて、その○○が午後21時頃を基準に、もっとも高くなる月や季節のことを言っていると思って良いだろう。

 さて、そういった「時季・見頃」とはあまり関係のない天体もある。今回の主役である北極星がその代表。

 地球の地軸を北方向に伸ばした先(天の北極、と言う)に北極星はあるので、我々の住む北半球からは、日周運動に関わらずまったく動いてるようには見えない(南半球からはそもそも見えない)。この天の北極から遠いほど星は大きな弧を描いて移動する。ちなみに中央競馬の「ポラリスS」も、歴史は浅いながら時期変更も条件変更もなくずっと3月の阪神競馬場(1回4日か1回5日)のダート1400mで行われており、(強引な繋げ方だが)ほとんど“動いていない”。

 天の北極から近い北天の星たちはそれとは逆に、北極星を中心に反時計回りで移動する。下のような写真を見ればなんとなく昔学校で覚えたような星の動きを思い出せるのではないか。北極星に近い星は一度も地平線に沈むことなく1日中、天に存在している(もちろん昼間は見えない)。

北天の運動。中心に近い星は地平線に沈まないのがわかる(写真:アフロ)

「北極星」とは、上記のように「地球の地軸を北方向に伸ばした先にある星」なので、厳密には特定の1つの星を指し示す言葉ではない。現在はこぐま座α星のポラリスがその役目を負っているが、約8000年後にははくちょう座のデネブ、12000年後にはこと座のベガが北極星となる(8000年後のレース名はどうなるのだろうか?)。「歳差運動」と呼ばれる地球の地軸の首振り運動によるもので、これは約2万5800年の周期で1周する。

 このように時季を問わない北極星というものに対して、「ポラリスS」という名前のレースが一貫して3月に、「北極星賞」が4月に行われていることにどのような背景や動機があるのか、なかなか判断はしづらい。しかし、想像の域は出ないということは断りつつ、「確かにポラリスSをやるのであれば春だな」と思えるような根拠もなくはない。次章からはそんな話をしていきたい。

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