ここまでで述べたような、馬に関わる世界史上のエピソードはほかにも山のようにある。だが、そのひとつひとつを伝えるのは私の著書をはじめ、さまざまな書籍に任せたい。そこで私の本講義の最終章ではまとめとして、馬を通して「世界史」を理解するうえでの“3つの枠組み”をご提示したい。
ひとつめは、第2章で述べた「馬を知らなかった世界」の実情とその限界である。その実例としてアメリカ大陸を挙げた。
ふたつめは反対に「馬を活用した世界」の実情とその後の歩みである。拙著『馬の世界史』でも書いたが、かつて地球には4000種ほどの哺乳類が棲息していたという。しかし、あらゆる哺乳類の頂点に立った人間が飼い慣らし家畜としたのは、ほんの10種類ほどしかない。もし人間が地上の支配者を豪語するなら、家畜となしえた動物の割合が、あまりに小さいのではないだろうか。人間が家畜にできたのは犬、猫、羊、山羊、牛、豚、馬、ロバ、ラクダぐらいである。
これらの動物に共通する資質、人間に好まれる性格とはなんであろう。諸説あるだろうが、私としては、まずは好奇心が強いこと、縄張り意識が希薄なこと、攻撃的でないこと、依存性が強いなどといった点を挙げたい。
© Net Dreamers Co., Ltd.