ゴールドシップは、なぜあれほどまでに多くの人々に愛されたのだろうか。まず、真っ先に考えられるのは見た目だ。芦毛の馬体にピンク色の鼻面。「つぶらな瞳がかわいい」なんていう書き込みも多い。もっとも、このあたりは見る人の主観が多分に反映されているので何ともいえない。
ただ、芦毛という毛色が人気を後押しした部分は小さくないだろう。人気の芦毛馬といえば元祖・芦毛のアイドルホース、オグリキャップ。さらに、同時代のタマモクロスやホワイトストーンも芦毛だったし、ゴールドシップの母父でいまだに最強ステイヤーの呼び声も高いメジロマックイーン、あるいは少し時代が下ってビワハヤヒデやセイウンスカイ、クロフネなどなど、枚挙にいとまがない。とくに、ブルードメアサイヤーのメジロマックイーンの面影をゴールドシップに見ていたというオールドファンも少なくなかったようだ。
実際、芦毛好きのファンは多い。若いうちは黒っぽかったり、灰色がかっていたり、あるいは母親の毛色に似ていたりするが、年齢を経るとともに白いブチが増えてきて、やがて真っ白な(見た目上の)白馬になるというのはとても魅力的だ。年齢を経ることでこれほどまでに色が変わっていくというのは、他の毛色ではお目にかかれない。
もちろん、ゴールドシップの魅力は毛色だけではない。競走馬にとって最も重要な「強さ」をもっていたことが、当然、人気の理由のひとつに挙げられよう。そもそも、強くなければ注目されることもない。まれに極端に弱い(100戦以上未勝利のような)ことで人気を博す馬もいないわけではないが、これは特殊な例。やはり、競走馬は強くないと愛されにくい。
ただし、ゴールドシップの場合は「ただ単に強い」ことで愛されたわけではない。「ゴールドシップ かわいい」で検索して出てきたまとめサイトには「強さと脆さの同居」という表現があった。まさに、言い得て妙といえるだろう。これについては別の章でレースを追いながら、もう少し深掘りしてみたい。
「強さ」に関しては、「強さと脆さの同居」とも絡むが、ゴールドシップがたびたび見せてくれた「通常ではあり得ないようなレース展開」も人気の秘密と言えるだろう。ゴールドシップの代名詞といえば「出遅れ」。そして、最後方から向こう正面で加速を始め、4コーナーでは先頭を伺う位置まで押し上げ、直線で抜け出すという超ロングスパートで勝ち切るという展開は、多くの競馬ファンが「あり得ない」と笑ってしまうほど魅力的な勝ち方だった。
そして、「強さと脆さの同居」がここでも表れ、あり得ない展開で勝つときもあれば、あり得ない展開で負けることもあるというのもまた、ファンにとっては大きな魅力だった。ハラハラして見ていられない、でも心配で目が離せない。そんな複雑な心境になり、もう心はゴールドシップのことで一杯になっている。
「あり得ない」という意味では、ゴールドシップの「キャラクター性」も愛される理由のひとつだ。代名詞の「出遅れ」もキャラクターだし、出遅れの原因である「気性難」も魅力的なキャラクターだ。気性難が絡んだ数々の不思議なエピソードも、ゴールドシップの魅力的なキャラクター性を示してくれる。
なかでも、競馬関係者までもが驚いたゴールドシップが「吠える」というエピソードは興味深い。「鳴く」「嘶く」ではなく「吠える」。しかも、他馬を威嚇するために「吠える」。ゲート内で、隣の馬を威嚇するような行動もたびたび見られた。
元ジョッキーの細江純子さんはJBISのコラムで、ゴールドシップが「吠える」ことについてこんなふうに書いている。
「私が馬と出会ってから初めて耳にした馬が吠えるという行為。鳴くのではなく、吠える…。しかも地鳴りを思わせるような、深い深い奥底から振動するような声で、一瞬、寒気すら感じたほどの恐怖でした。猛獣を通り越して怪獣のような恐ろしさと、馬がこのような音を発するのだ〜という驚きに、思わず私もキャーキャーと声を乱してしまいました。」
「ゴールドシップの担当である今浪厩務員の元にかけよると、同じく第一声が、『吠えとったわ』と。そして、『隣のフェノーメノにケンカ腰になっていた』と愛馬の気持ちを代弁。そして数分後に決着したレースの勝者はフェノーメノに...。もし今浪厩務員のおっしゃるとおり、本当にフェノーメノを威嚇していたとするならば、やはりゴールドシップはあのレースでの勝者を理解していた可能性は十分に考えられる気がします。」(原文ママ)
そして、もともと群れで暮らしていた馬は集団のなかでボス争いをすることも珍しくなく、強いオーラを放つフェノーメノにボス争いを挑んだのかもしれないと分析している。
ゲート内で隣の馬にボス争いを仕掛け、吠えて威嚇する。そんなとんでもないキャラクターの持ち主が、愛されないはずがない。いや、もう愛さずにはいられない。こうしたゴールドシップの魅力について検証していきたいと思うが、次章では「強さと脆さの同居」について見ていこう。
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