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ダークホースの名を冠したウイスキー

ダークホースの名を冠したウイスキー

第5章

ダークホースの名を冠したウイスキー

酒と名馬 出会いの物語

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 カナダのアルバータ州カルガリー近郊に北米最大規模のライウイスキー蒸溜所、アルバータ蒸溜所がある。創業は1946年。ここが生み出すライ麦100%使用の「アルバータ・プレミアム」はカナダのメジャーブランドとして君臨しており、“カナダの至宝”とまでうたわれる。

 このアルバータ蒸溜所が2012年、「アルバータ・ダークホース」という製品を発売した。

 これはカナディアンウイスキーの常識を覆す新しいコンセプトのウイスキーであり、ライウイスキー91%、バーボン8%、シェリー酒1%の比率でブレンドした、独特の甘みのある大胆でリッチな味わいを特長としている。

製品名にある「ダークホース」とは、アルバータ蒸溜所創設者のひとりフランク・マクマホンの愛馬を讃えたものである。馬名は“マジェスティックプリンス”。1967年にマクマホンがケンタッキー州レキシントンにあるキーランド競馬場のイヤリングセールで、当時の最高記録価格25万ドルで競り落とした馬である。

 この彼の愛馬の活躍は華々しいものであった。1969年の第95回ケンタッキーダービーにおいて前評判の高かった一番人気馬を破り勝利し、さらにつづくプリークネスステークスをも制しクラシックレース二冠を達成した。

 前年の2歳シーズンから3歳シーズンのクラシックレースまで負け無しであり、予想外の番狂わせをする馬というよりも未知の能力を秘めた馬との意味から“ダークホース”の愛称で呼ばれる。デビュー以来無敗でのクラシックレース二冠はアメリカ競馬史上初の快挙だった。勝利後は“ザ・プリンス”との称号で讃えられた。

 まさに「アルバータ・ダークホース」はカナディアンウイスキーの常識を覆すウイスキーにふさわしいネーミングといえる。

 現在、アメリカと日本に輸出されている。しかしながら商標の関係でアメリカと日本では「アルバータ・ダークバッチ」に名称変更されて売られている。日本に入っている量は少ないかもしれないが、「ダークバッチ」を酒場や酒販店で目にしたら、それは“マジェスティックプリンス”を讃えたウイスキーだと思い出していただきたい。

ライウイスキー91%、バーボン8%、シェリー酒1%というユニークな比率の「アルバータ・ダークバッチ」。まずはストレートかロックで深い香味を感じたい

 ただし、三冠はならなかった。歴史に残る大記録、無敗の三冠馬の誕生への期待はあまりにも大き過ぎた。プリークネスステークスで勝利した後、右前脚の腱に異常が見つかる。休養を宣言したものの、過剰なまでに人気が沸騰していた。そこにメディアが煽り立てる記事をさまざまに発表したことにより、調教師が「ベストではないが、出走可能」というコメントを出してしまう。

 結果、ベルモントステークスに出走し、二冠のときに勝利した馬に5馬身半もの差をつけられ2着に終わる。

 そして巨額のシンジケートが成立していたために圧力がかかり、その後休養ではなく早くも引退に追い込まれた。

 戦績は2歳の1968年が2戦2勝、1969年の3歳時は8戦7勝であった。

 引退後の“マジェスティックプリンス”は種牡馬としてケンタッキーのレキシントン、スタンドスリフトファームに落ち着く。そこで33頭ものステークス勝馬を輩出。1981年、心臓麻痺により15歳で亡くなる。4代先の子孫は、2001年、2010年のケンタッキーダービーを制している。

   最後にもう1ブランドを紹介しよう。アイルランド系移民の話をしたので、アメリカが禁酒法を施行した1920年(〜33年)まで、そのアメリカで大人気だったアイリッシュシングルモルトウイスキー「ターコネル」の話だ。

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