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オールラウンダーとして完成したフェブラリーS

オールラウンダーとして完成したフェブラリーS

第1章

オールラウンダーとして完成したフェブラリーS

稀代のオールラウンダー アグネスデジタル

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 2002年2月17日、フェブラリーS。曇天の東京競馬場に、錚々たるメンバーが集結した。

 前年のドバイワールドカップ2着のトゥザヴィクトリー、ダートG1を2勝しているウイングアロー。前哨戦の根岸Sを勝って本格化著しいサウスヴィグラスに、さらには前回覇者のノボトゥルー。地方からは南関東4冠馬のトーシンブリザードと、東京大賞典で中央勢を破ってきたトーホウエンペラーも参戦してきた。

 そしてこれらをすべて差し置いて1番人気に支持されたのがアグネスデジタルだ。

 大舞台に強い四位洋文を背に、地方→中央→海外とG1を3連勝中で、状態さえ問題なければここも当然好勝負だろうと目されていた。

 7万人を超える観衆が見守る中、レースは発走時刻を迎えた。

 外枠から好スタートを決めたノボジャックがひっぱる展開になり、武豊騎乗のトゥザヴィクトリーが内目の2番手を進んだ。サウスヴィグラスが続き、ノボトゥルーとトーホウエンペラーは4〜5番手の好位を追走。その後ろ、中団よりやや前の位置にアグネスデジタルは構えた。

 海外遠征帰りの懸念はあったが、いまの充実ぶりなら勝てるだろうと、鞍上の四位は自信を持って乗っていた。

 各有力馬が思い通りの位置を取れたこともあり、道中大きな動きはなかったが、4コーナー付近から徐々に馬群が凝縮してきた。

 直線に入るとトゥザヴィクトリーが抜群の手応えで先頭に並びかけ、呼応するように後続も追い出し始める。
 直線半ばでは、トゥザヴィクトリーが2馬身ほど差を広げて先頭を走っていたが、残り200mのハロン棒を過ぎたあたりで脚色が鈍り、内からノボトゥルー、外からアグネスデジタルとトーシンブリザードが強襲してきた。

 残り50mで大勢が一気に入れ替わり、最後は馬場の真ん中を突き抜けてきたアグネスデジタルが1馬身差をつけてゴールした。

 同じような脚色で追い込んできたトーシンブリザードが2着、3着以下はノボトゥルー、トゥザヴィクトリー、トーホウエンペラーと続いた。有力馬が力を出し切り、ゴール直前まで勝負の行方がわからない見ごたえのあるレースとなった。

 勝ったアグネスデジタルは、この勝利でG1の連勝を"4"に伸ばした(南部杯、天皇賞・秋、香港C、フェブラリーS)。中央競馬の芝とダートのG1を両方制したのは、前年のクロフネに続き、史上2頭目の快挙だった。

 サラブレッドの適性が細分化された現代競馬において、複数のカテゴリでチャンピオンになることはむずかしい。

 そこには必ず、距離適性の壁、コース適性の壁、馬場適性の壁が立ちはだかる。だが、アグネスデジタルはその壁を飄々と越えた。
 いわゆるオールラウンダーで、あらゆる舞台で栄光を手にした。一方で、凡走も数多くあった。まったくつかみどころのない、不思議な馬である。

 ディープインパクトやオルフェーヴル、キタサンブラックなど芝の中長距離路線で堅実な実績を残した馬を「ストレート」な名馬とすると、アグネスデジタルは「変化球」の名馬だろう。"強い"のひとことでは言い尽くせない奥深い魅力がある。

 本書では彼の競走成績をたどっていくことで、その魅力を堪能していただきたい。

■プロフィール
馬名:アグネスデジタル
生誕:1997年5月15日
生産地:アメリカ合衆国ケンタッキー州
生産者:ラニモードファーム
馬主:渡辺孝男
管理調教師:白井寿昭(栗東)
担当厩務員:井上多実男

■血統
父:Crafty Prospector
母:Chancey Squaw
母の父:Chief's Crown

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