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春の“星重賞”もやはりダート

春の“星重賞”もやはりダート

第1章

春の“星重賞”もやはりダート

競馬で学ぶ春の星空

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 中央競馬のレース名の由来にも色々な種類のものがある。地名・植物・宝石・神話……そしてこの原稿の主題である天体など。このシリーズの「冬」バージョンは既に公開させていただいたが、今回「春」の原稿を作成するにあたって、どうにも前回の「冬」よりも色々と難しくなりそうな雰囲気があった。

 というのも、実際にどんな名前のレースが存在しているかを調べる前から、漠然とそんな予感はしていたが、この季節の中央競馬には天体由来のものがあまり多くないからだ。JRAのホームページで確認できる、特別競走のレース名の由来を確認してみても、特にこの時季は植物であったり、山河などの自然由来のレース名が占める割合が大きい。

 新緑の芽吹く季節。遥か遠くの星々よりも近くにある豊かな自然に目を凝らせということだろうか。ちなみに、昨年だけでも「新緑賞」という競走はJRA東京競馬場をはじめ、大井・笠松・盛岡で行われた。笠松の勝ち馬は「サザンオールスター」、大井の2着馬は「スターリットナイト」。これが天文由来のレース名であったならばうまいことこじつけられたのだが……と思わなくもない。

 しかし、そんなことを言っていても仕方がないので、競馬ゆかりの「春」の星空を見ていこうと思う。

■アンタレスはおおむね時季ぴったりに

「冬」の原稿でも書いた通り、かなり大雑把な傾向としては、中央競馬では星座名が芝の競走に、恒星名がダートの競走に充てられている(芝で行われる“リゲルS”など、例外はある)。ただ、やはり年間を通して各季節を比較してみても、春季にはレース数という分母から見た“天体レース名”はやや少ない印象を受ける。

 そんな中でも、中央競馬に4つ存在する「恒星名を持つダート重賞」のうち、最初に行われるアンタレスSは4月の開催となっている(残りは7月のプロキオンS、9月のシリウスS、12月のカペラS)。1996年に創設された時は6月の施行だったが、翌年に5月、そして2000年には4月となった。

 季節で区切ってこの原稿を作成しておいて恐縮だが、星空というものは意外と前後の季節の状態を見ることが可能だ。春先でいえば、夕方過ぎにはまだ冬のオリオン座、明け方が近くなれば夏を先取りしてベガやアンタレスが見える。

 そういう意味では、アンタレスは一般的には夏に見頃を迎える恒星だが、アンタレスSがこれまで経てきた「4月・5月・6月」という開催時期は、おおむね由来の天体・アンタレスと食い違わないタイミングと言えると思う。

 さて、そんなアンタレスだが、空に浮かぶ方はいったいどういう星なのか。

 アンタレスは上記のように夏に見頃が来る、さそり座のα星である一等星。和名では「赤星」、世界各国では「さそりの心臓」というような意味合いで呼称される通り、さそりをイメージした天文絵の中で中心部に存在する赤い星がアンタレスだ。また、その色合いが火星と非常に良く似ており「アンタレス」という名前はギリシャ語で「火星に対するもの」を意味する。火星は惑星であるがゆえに「1年のうち、この季節にはこの方角にある」という明快な説明がどうしてもできないのが残念だが、実際確かに良く似ているので、確認してみてほしい。2018年5月現在であれば、火星は日付が変わる頃に昇り、夜明けに向けて徐々に南東に向かっていく。大雑把に言えばそのような動きを取る。

中央の赤い星がさそりの心臓とも言われるアンタレス。他の星の色合いとは一線を画している(写真:アフロ)

 アンタレス自身はというと、春季は日が暮れた辺りから東の空に昇りはじめ、その後は南の空高くに向かって進んでいく。火星は(今年は)その後を追って出てくる。

「冬」のときは、非常にわかりやすく、なじみのあるオリオン座をキーにして他の星の見つけ方をガイドさせてもらった(しかも、どの星も競馬と関わりがあった)が、今回はなかなかそれが難しい。ただ、幸いにもアンタレスは他の星座・星との位置関係を知らずとも、おおまかな季節と方角さえ知っていれば、かなり見つけやすい星だと思われる。

 春季から夏季であれば、日没から午前0時までどの時間帯でも南東から南の空、そこまで高過ぎはしない位置に赤い星が見える。それがアンタレスだ。なかなか都市部の空の明るさでは、ここからさそり座の全体像を結ぶのは難しいが、少なくともこの「赤」は発見するのにそこまでの難は感じずに済むだろう。

「冬」の際にも書いたことだが、「星ごとに色の違いもあって面白いな」と感じることもできるので、ぜひとも南天の「赤」を眺めてみてほしい。1年のうち、アンタレスSが行われる頃であればちょうどいいはずだ。

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