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将来を決める分水嶺となったシンザン記念での勝利

将来を決める分水嶺となったシンザン記念での勝利

第2章

将来を決める分水嶺となったシンザン記念での勝利

ジェンティルドンナ “貴婦人”という名の女丈夫

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 ドナブリーニの第2仔の牝馬は、2009(平成21)年2月20日、北海道勇払郡平取町のノーザンファームで生まれた。のちに自厩舎で管理することになる石坂正調教師は、当歳の頃に見た印象について、「ディープインパクト産駒にしては大きな馬だな」と感じたという。

 ディープインパクト自身、あまり大きくなかったこともあってか、産駒も比較的小さな馬が多かった。また、全姉ドナウブルーも比較的小さい馬だったので、石坂師もそのイメージをもっていたのだが、意外にがっしりとした馬で驚いたようだ。

 馬主は、ノーザンファームの副代表も務める吉田俊介氏が代表の有限会社サンデーレーシング。いわゆる「一口馬主」のクラブ法人である。「一口馬主」としての募集価格は1口85万円(40口)。最長10回の分割払いが可能なことを考えると、サンデーレーシングのなかでは比較的出資しやすい、お手頃な価格だったといえるかもしれない。

「貴婦人」という意味のイタリア語から「ジェンティルドンナ」と名付けられたこの馬は、2011年の夏、石坂厩舎に入厩した。

 このときすでに、前出の1歳年上の全姉ドナウブルーも同馬主で同厩舎に所属しており、シンザン記念(G3)5着、フィリーズレビュー(G2)4着、ニュージーランドトロフィー(G2)6着と、重賞でそこそこ走る馬という評価だった。姉の戦績から、ジェンティルドンナもある程度はしっかり走ってくれるのではないか。関係者たちの、そんな期待を背負っての入厩だった。

 デビュー戦は、2011年11月19日の京都競馬場、2歳新馬(芝1600m)。レース前、石坂氏は「姉よりもおっとりした気性で普段から調整しやすく、馬格もある。先々まで楽しみな馬」とコメントしている。姉のドナウブルーは気性が激しく、レースでも出遅れる場面があったが、妹のジェンティルドンナは(この時点では)「貴婦人」の名にふさわしく、おっとりとしていて、落ち着いた性格だった。

 調教での動きもよかったジェンティルドンナは、単勝2.1倍の1番人気に推された。この日の京都は雨。不良馬場でのレースとなった。

 好スタートから中団まで下げる。馬群がかたまり、終始、外を走らされる展開となる。直線伸びてはいるものの、逃げたエイシンフルマークの脚色が衰えず、2馬身差の2着でゴールした。

 次戦は、12月10日の阪神競馬場、2歳未勝利、芝1600m。調教での動きもよく、単勝1.6倍の1番人気に推された。馬場は良馬場。切れ味鋭いジェンティルドンナの末脚が生かせるコンデションといえた。

 レースは、好スタートから2、3番手での競馬となった。3、4コーナー中間あたりでは、5番手の位置。インコースから直線に向くが、やや前が詰まる形になる。それでもここでは力が違った。前を割る形で抜け出すと、さらに加速。最後は2着に3馬身半の差をつけ、初勝利を飾った。

 次戦は年明け、2012年1月8日の京都競馬場、シンザン記念(G3)、芝1600m。このレースは、前年に全姉ドナウブルーが出走し、1番人気に推されながら5着に敗れたレースだ。直前の追い切りでは併せ馬の未勝利馬に遅れをとったものの、それまでは順調に乗り込まれてきており、担当の日迫真吾厩務員(調教助手)は「中間、しっかり調教を積めて状態は変わりないし、今のところ課題らしい課題もない。重賞でどんなレースをするか楽しみ。センスのいい馬だし、力を出し切れれば好勝負できる」と期待十分のコメントを発している。

 人気は単勝4.0倍の2番人気。1番人気は、朝日杯フューチュリティステークス(G1)4着のトウケイヘイローだった。ジェンティルドンナは好スタートで前方からの競馬となる。道中、やや抑えて、4番手あたりに落ち着く。

 直線、内に持ち出し、先行集団を捉えると、一気に先頭に立つ。そのまま押し切り、1馬身1/4差で勝利。牝馬がシンザン記念を勝ったのは、1999年のフサイチエアデール以来13年ぶり。前年、姉が勝てなかったレースを強い勝ち方で勝利したことで、今後の展望も大きく開けていくことになった。

ブックス

2012年シンザン記念

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