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本当に牝馬は強くなったのか?

本当に牝馬は強くなったのか?

第1章

本当に牝馬は強くなったのか?

強い牝馬はナゼ増えた?

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 ここ最近、牝馬の強さが目立つ。以前なら、牝馬というだけで“消し”と判断していたようなレースで、牝馬の勝ち馬が目立ってきた。いったい、いつ頃から、どんな要因で牝馬が強くなってきたのか。なにか、特別なキッカケや技術の進化などがあったのだろうか。そのあたりを探ってみたいと思う。

「最近」とひと口に言っても、いつからを指すのかわかりづらいかもしれない。牝馬はいつ頃から強くなったのか―――。まずここでは、牡牝混合のGIレースを勝った牝馬の例を見ておきたい。なお、あくまでも例として挙げているので、必ずしも牡牝混合のGIレースを勝ったすべての牝馬を列挙しているわけではないことは、事前にお断わりしておく。漏れがあるかもしれないが、ご容赦いただきたい。

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2000m以上で活躍した主な牝馬

 1993年生まれのエアグルーヴ以前となると、1600m以下のGIなら、フラワーパーク(1992年生まれ)、ノースフライト(1990年生まれ)、シンコウラブリイ(1989年生まれ)、ニシノフラワー(1989年生まれ)、ダイイチルビー(1987年生まれ)とかなり挙げられるのだが、2000m以上となると、1980年の天皇賞(秋)を制したプリテイキャスト(1975年生まれ)、同レースを1971年に制したトウメイ(1966年生まれ)と限られてくる。天皇賞(春)に至っては、1953年に制したレダ(1949年生まれ)が唯一の勝ち馬だ。

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1600m以下で活躍した主な牝馬

 もっとわかりやすいのは、牝馬の年度代表馬だ。

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牝馬の年度代表馬

 なんと、この10年のうち5年が牝馬だ(ウオッカとジェンティルドンナが2度受賞しているので、頭数は3頭)。それ以前は、1997年度のエアグルーヴと1971年度のトウメイしかいない。  やはり、ここ10年ほどで牡馬をもしのぐ牝馬が急激に増えてきたといえるのではないだろうか。この「牝馬の年度代表馬」の表を見る限り、少なくともこの10年の牝馬の活躍ぶりは疑いようもない。

 ちなみに、海外の競馬はどうだろうか。

 最も日本と似た傾向(あるいはそれ以上)を示しているのは、フランスの凱旋門賞(GI、芝2400m)だろう。この10年(2009〜2018年)で牝馬が7勝(トレヴとエネイブルがそれぞれ連勝しているので、頭数は5頭)。その前の2008年も牝馬が勝っている。それ以前は牡馬が14連勝。牝馬の勝利は、1993年のアーバンシーまで遡る。さらに遡ると、牡馬が9連勝。ただしその直前、1979年から1983年までは牝馬が5連勝している。

 イギリスのキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(GI、芝2400m)は、この10年で牝馬は3勝。2012年にデインドリームが勝利する前は、なんと牡馬が28連勝。牝馬の勝利は、1983年のタイムチャーターまで遡ることになる。そう考えると、この10年で3勝というのは、特筆すべき事項といえるかもしれない。

 オーストラリアのクイーンエリザベスステークス(GI、芝2000m)は、2014年に賞金が大幅に増額されたが、それ以降の5年間で牝馬が3勝(ウィンクスが連勝しているので、頭数は2頭)している。それ以前の2012年にも牝馬が勝利しているが、その前は1987年まで遡らないと牝馬の勝利はない。

 これらに対して、アメリカのブリーダーズカップ・ターフ(GI、芝2400m)は、昔も今も牡馬が優勢なレースといえる。2015年に牝馬のファウンドが勝っているが、それ以前は、1991年のミスアレッジド、1985年のペブルスと、牝馬は歴代3頭しか勝っていない。ブリーダーズカップ・クラシック(GI、ダ2000m)にいたっては、1984年の創設以降、牝馬で勝ったのは2009年のゼニヤッタのみ(しかも、この年はオールウェザートラックで行われている)。

 海外競馬については検証が難しいこともあり、ここではアメリカを除けば、以前と比べて最近の牝馬の活躍ぶりが目立つという事実を確認するに留めることとする。

 では、日本の競馬においては、いったいいつ頃から、どうして牝馬は強くなったのか。このことを探るべく、栃木県下野市にあるJRA競走馬総合研究所へと足を運んで、専門家の見解をうかがうことにした。

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