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彼は気まぐれな天才肌

彼は気まぐれな天才肌

第1章

彼は気まぐれな天才肌

オルフェーヴル 豪傑は本当にオンナに弱かったのか

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 頭のいい馬というのは、騎手の指示を適確に理解し、瞬時に反応できる馬のことを指すという。いわゆる「秀才型」である。だが、オルフェーヴルのように天才肌の馬は違う。時には突飛な行動に出て、周囲の人々を振り回す。いやそれ以前に、まずは、育てるのが難しい。こういう難物は、まかり間違えば、才能を開花させることなく、無駄に終わってしまうこともある。こんな予測不能な天才馬を、よくぞ伝説の名馬にしてくれたと、池江泰寿調教師、池添謙一騎手には、オルフェーヴルのファンから感謝状を贈りたいくらいだ。

 だが、これを転じて歴史上の人間を見ても、織田信長や平清盛など、大器の人物は往々にして、青年時代はウツケか才人か、見分けがつかない行動をするものだ。

 もしオルフェーヴルが武将として生まれていたら、大河ドラマに何回も登場するような、屈指の大将となっていたことは間違いないだろう。


人間だったら「モテ男」

 大将の器であるだけでなく、いつの時代に生まれたとしても「モテ男」だったことも確かだろう。たとえば、どこかの女性雑誌で「恋人にしたい牡馬ランキング」などというアンケートがあったとしたら、オルフェーヴルは、きっと人気ナンバー1となるのではないだろうか。

 では、彼はなぜモテるのか。それは手がかかり、かけた分だけ輝くからだ。「じゃじゃ馬」という言葉を辞書で引くと、「あばれ馬、人の制御に従わずむずかしい人、特に女性を言う」と書いてあるが、こうした女性を乗りこなす「じゃじゃ馬ならし」が男冥利につきるなら、ヤンチャな牡馬を自分に振り向かせて、恋人にするのもまた女冥利につきると言える。

 しかも、相手は予測不能な行動をする、天才肌の男だ。女にとって、これほど魅惑的な存在はない。

 だが、ひとつ、彼にまつわる、ある“噂”を耳にした。オルフェーヴルは、実は女には、からきし弱かったというのだ。「いや、そんなことはないだろう」と、にわかには信じがたい。万一本当ならば、それこそが彼の最大の弱点だったのかもしれない。豪傑は、実は女性に対しては飼い猫のように可愛らしい存在になってしまうのだろうか。はたして真実はいかにと思い、改めて現役時代のレースを検証してみることにした。

(写真は、2011年の菊花賞)

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