ヴィクトワールピサの鞍上は、父のネオユニヴァースにも乗っていたミルコ・デムーロが務めていた。そのデムーロによれば、ゲートが日本のものより狭く、開いた瞬間に頭をぶつけたために出遅れてしまったということだった。
スタンド前、藤田伸二が手綱を激しくしごき、トランセンドが先頭を切って1コーナーへ向かっていく。そして、そこから固まった中団馬群を越えて15馬身ほど後方にブエナビスタ。さらに後ろ、最後方にヴィクトワールピサはいた。
1コーナーから2コーナー。藤田伸二の手綱は動きを止め、トランセンドをスローペースの逃げへと持ち込むことに成功する。
向正面に入ると、そのトランセンドが首をおかしな感じで内側に曲げながら走っている姿が、大型ビジョンに大映しになった。馬場の内側を同じスピードで走りながら馬群を映している車の、その車載カメラを気にして見ているのだ。
トランセンドの安田隆行調教師によると、何かあると顔を横に曲げてそっちを見るのは、トランセンドの普段の癖なのだという。
「でも藤田ジョッキーも言っていたんですが、本来はもう少し引っかかりそうな勢いで行く馬なのに、あれで気が散って、かえって楽に走れたんじゃないかなと思います」
いずれにせよ、そこでペースは落ち着き、レースは3〜4コーナーの勝負所まではこのまま推移していきそうに見えた。誰もがそう思った瞬間、驚くべきことが起こった。
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