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柏木集保「予想は記憶をかたちにする作業である」

柏木集保「予想は記憶をかたちにする作業である」

第1章

柏木集保「予想は記憶をかたちにする作業である」

予想の極意

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【分厚いバインダーにレースの「記憶」を集約させていく】

 柏木集保が予想において重視しているのは、回顧だ。目の前で起こったレースを正しく振り返り、記憶に残すことができなくては、未来につながらない。「予想は記憶をかたちにする作業」と柏木はいう。彼が常に持ち歩く分厚いバインダーのルーズリーフには、全レースの馬柱の切り抜きが貼りつけてある。そこには「アオル」「ヨレル」といったレース中の出来事から、馬体重、ラップタイムやレース後に気が付いた点、各馬の印象などが書き込んである。柏木の予想は、まず、それぞれのレースの「記憶」をこのバインダーに集約するところから始まっているのだ。

ブックス

▲馬柱だけでなく、レース結果や騎手コメントなども貼りつけられている

 いまも柏木は土・日と競馬場に足を運んでいる。現場にいるからこそもたらされる印象も、彼にとってかけがえのない記憶なのである。朝いちのレースから、出走するたびに記者席の扉を開け、スタンドから双眼鏡をのぞき、レースが終わるとバインダーに書き込んでいく。レース前後で編集されるバインダーが完成するのは、最終レースが終わり、競馬場から人気がなくなるころ。そうしてこの手作りの資料は、予想するために欠かせない「記憶」になるのである。

 週が明けて月曜日、特別登録が手もとに届くと、バインダーの資料と照らし合わせて予想の「あたり」をつける。水曜日の出走想定、木曜日の登録馬と出走情報の精度が高まっていくごとに、フォーカスを絞り込んでいく。そして木曜日の夜から、記憶をかたちにする作業に入る。「予想は体力勝負。どれだけ記憶を引き出せるかが大事」という彼にとって、<出走頭数×諸条件>で成り立つ百もの要素から、「記憶」を用いて答えを導き出す、真剣勝負のときだ。

【時間の限り、繰り返し各馬を検討していく】

 予想に入って最初にすることは、出走全馬の全体像から、そのレースのポイントを決めることである。「世代のレベル」「馬場傾向」「推定勝ち時計」……ポイントはもちろん、レースごとに変わってくる。次にそのポイントを念頭に置きながら、各馬の検討に移っていく。バインダーに集められた「記憶」をもとに、繰り返しチェック。著名馬のゴールドシップのように、過去に幾度も検討したことがある馬でも、当該条件とレースのポイントに合わせて、資料を何度も読み込み、時間のある限り検討していく。一度◎をつけた馬は、どんなに成績が悪くても次走で無印にすることはない。「初めて印をつけた時点で、その馬に対する評価はおよそ決まっている。あとはそこからレースの結果によって調整していく作業になる」と柏木はいう。彼にとっては過去につけた印も、積み重なっていく「記憶」のひとつである。

 そうして少しずつ輪郭を帯びてくる各馬の印象に、仕上げとして数字の裏付けを当てはめると、記憶は予想印というかたちになる。柏木は印を打つ作業に、1レースでおよそ30分はかけるという。ただしすべてのレースに30分かかるわけではなく、ダービーや有馬記念など、少なくとも2〜3週間以上前から検討している場合は早く終わることも多い。そういった際には確かな記憶があるからこその閃きがもたらされることもあるという。

 今週末も『日刊競馬』を手に取れば、レースごとに柏木の印が展開されている。◎○▲△……厚いバインダーにまとめられた記憶をもとに作られた印を眺めていると、あたかも彼と会話をしているかのようにも思えてくる。そこに込められた助言を求め、柏木の印を買っている読者は、競馬記者として42年を過ごした彼の「記憶」を買っているといえるかもしれない。

【柏木集保の流儀】

・レースの記憶を書き留める

・予想はまずレースのポイントを決める

・必ず数字の裏付けを取る

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