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丹下日出夫「予想は瞬発力の勝負だ」

丹下日出夫「予想は瞬発力の勝負だ」

第2章

丹下日出夫「予想は瞬発力の勝負だ」

予想の極意

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【優れた「タイム」をピックアップしていく】

 月曜日、丹下日出夫の恒例となっているのは、競馬ブックに掲載されている、開催ごとの成績表をコピーすることだ。それを見ながら優れた勝ち時計や上がりタイムを見つけ、マーキングしていく。全場全レースの成績をチェックするが、なかでも根幹距離である1600や2000mに比重を置いてピックアップする。この作業によって、勝ち時計とラップによる客観的な能力比較ができるようになる。予想のベースとなるこの資料作りに、丹下はおよそ30分から1時間をかけるという。

ブックス

▲およそ3年分の成績表にマーキングがされている

 翌火曜日には、特別登録を見ながら特別戦の検討に入っていく。父、母、斤量、厩舎、近走成績……まず全体像を把握し、そこから1頭ずつ分析していく。競馬四季報をめくりながら細かい戦績を確認し、一週前までの調教過程をチェック。1頭ずつイメージを鮮明にしていくことで、その馬にどんな印をつけるかという予想のディテールを固めていく。

 なかでも重要視しているのが、前出の成績表である。「その馬が一番能力を出せる条件やコンディションは、勝利時の記録から浮き彫りになる」というのが、丹下の考えだ。手もとには3年分の成績表を用意しておき、各馬の強み・弱みから、印を検討する際の決め手にしていく。自宅には20年分ほど、資料として置いてある。

【出走馬を1頭につき1分で検討していく】

 丹下は基本的に、各馬の検討を1頭1分で終えるようにしている。「予想とは瞬発力の勝負」と彼はいう。幾多の情報を頭のなかで集約させ、閃きにも似た処理速度で解答を出していく。頭の引き出しから、どれだけスピーディーに情報を出し入れできるか――。瞬間反応へのこだわりが「1頭1分」には込められている。土曜日・日曜日の特別戦およそ24鞍に予想印を付ける作業を、丹下は火曜・水曜の2日間で終わらせるという。

 水曜日の17時までには印を付ける作業をあらかた終え、18時頃には最終追い切りの情報が届く。追い切りに関しては「馬は直前の調教だけでできるのではなく、それまでの過程が大事」という考えから、一週前の段階でおよその状態を判断、直前追い切りの情報で微調整するようにしているという。予想印につけくわえる、レース見解の原稿は、土・日分を合わせると400字詰め原稿用紙で20枚ほどになる。それを木曜日いっぱいで仕上げていく。

 レースが終わった瞬間に、勝ち馬のレベルを評価できる感受性も「予想の瞬発力」だと丹下はいう。例えばディープインパクトの新馬戦。レース後にラップを見直すと、上がり3ハロン33秒1のなかに、1ハロン10秒8という驚異的なラップがあった。すぐに馬社の先輩・井崎脩五郎と語り合ったという。基本的に理詰めの予想であり、印象よりも数字をより重視するようにしているが、「次は絶対に印を打とう」と思うほど強い印象を受けた馬には、レース結果や数字にとらわれないように心がけている。

 金曜日には「8割以上は当たるだろう」という心持ちで予想をおくりだす。「でもやっぱり、だいたい上手くいかないね」と丹下は頭をかくが、それもまた、彼にとっての予想ということなのだろう。

【丹下日出夫の流儀】

・優れた勝ち時計・上がりタイムをマーキングする

・各馬の検討を1頭1分で終える

・強い印象を受けた際は感覚を重視する

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