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長谷川仁志「印を削るのが予想である」

長谷川仁志「印を削るのが予想である」

第3章

長谷川仁志「印を削るのが予想である」

予想の極意

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【「タイムランク」を成績表に書き込んでいく】

 長谷川仁志の武器は、長きに渡り競馬場に通った歴史である。『ラジオ日本・競馬実況中継』のブースに通い続け、約30年。放送中に解説、回顧をしたレース数は、すでに天文学的な数字となっている。現場でレースを観戦することはもちろん、メディアで見解を口にすることで自らのスタイル、予想法が完成されていったのだ。

 もうひとつの担当番組が、グリーンチャンネルの『先週の結果分析』。この番組では、週末に行われた中央競馬全レースに対してタイム分析が行われる。長谷川は「タイムランク作成委員会」の一員として、自分が出演していない回も必ず全レースに目を通し、タイムランク(※)を作成している。タイムランクは成績表のコピーに几帳面な字で書き込まれており、ファイリングして常に持ち歩くようにしているという。「時計や指数で予想をするタイプではないけれど、タイムランクはすべての下敷きになっている」と長谷川はいう。 ※レベルの高いレースをあらわす指標

ブックス

▲『週刊競馬ブック』の開催ごとの成績表のコピーに、タイムランクが書き込んである

「この仕事は頑固な人間にしかできない」という言葉通り、自分のルールを頑固に貫くのが長谷川である。いくつになっても、聴く音楽は洋楽ロックだけ。風呂は銭湯にしか入らない。そしてもっとも厳格なルールが「印を削るのが予想」という考え方だ。印を沢山打てば、的中する可能性は高くなる。それでも長谷川は、できるだけ印の数を研ぎ澄ませようとしている。ひとつひとつの印の精度を、可能な限り高めようとしている。そんなこだわりを彼にもたらしたのは、ひとりの先達の言葉だった。

「長谷川君、予想は印を付けるんじゃない。削るものなんだよ」

 一馬(現・優馬)に所属していた故・石井進吾の言葉である。

【迷いが生じた馬に印はつけない】

 長谷川は「印を削る」の考え方から、少しでも迷いが生じたときには「ノーマーク」を貫く。もちろん人間なのだから「あと1つ印を増やしておけば……」と歯噛みすることもある。実際に馬三郎では出走頭数の半分まで印が許されるのだから、そうすれば良いのだ。だけれども彼はそれをしない。「印を削る」という姿勢がぶれることはない。

ブックス

▲分厚いバインダーには、過去のレース成績が貼りつけられている

 馬券を買う時も長谷川は、紙面の印を忠実に馬券に反映させている。本命はあくまで連軸。だから3連複は買わない、3連単のマルチも購入しない。「本命が3着に来て、お客さんが外れているのに自分だけが儲けるわけにはいかない」。真摯といえば格好良いが、悪くいえば愚直ともいえるスタイルが、長谷川の真骨頂だ。

「撃たれるとわかっていても、戦場に行かなければいけない戦いがある」――今週も彼は予想という戦場で赤ペンを振るい、印を削って戦い続けている。

【長谷川仁志の流儀】

・タイムランクを成績表に書き込む

・可能な限り印の数を減らしていく

・迷いが生じた馬に印はつけない

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