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有馬記念で“ツケ”を回収してくれた5頭の穴馬

有馬記念で“ツケ”を回収してくれた5頭の穴馬

第1章

有馬記念で“ツケ”を回収してくれた5頭の穴馬

有馬記念 馬券教本

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 年の瀬になると、なぜか毎年、慌ただしい気持ちになる。世間一般、年の瀬はみな、慌ただしくなるものだが、物書きや編集の仕事をしていると「年末進行」という非常に慌ただしいスケジュールに悩まされる。

 最近はネットが中心なので以前よりはだいぶ楽にはなっているが、紙の媒体だとそうはいかない。デザイン会社も印刷所も製本所も、年末年始は休みになって動かない。だから休みに入る前に、年始に出す出版物の仕事をすべて終えておかなければならない。しかも、どの会社も同じことを考えて動くので、デザイン会社、印刷所、製本所に仕事が集中して、普段どおりのスケジュールが組めない。そこで、ただでさえきついスケジュールを、さらに前倒ししてやっていかないと間に合わない。スケジュール自体がまさに綱渡り。これが出版業界恒例、年の瀬の「年末進行」である。

 ところで、皆さんは「年の瀬」と聞いて何を思い出すだろうか。一般的には新年を迎える準備としての「大掃除」とか「正月飾り(注連飾り)を飾る」、「年賀状作成」、「お歳暮を贈る」、「お節料理の準備」などというものがあるだろう。人によっては年末年始は「帰省」、あるいは「海外旅行」などといううらやましい人もいるかもしれない。

「クリスマス」を楽しみにしている人もいるだろうし、「除夜の鐘」を撞きに行くのを心待ちにしている人もいるかもしれない。「手帳やカレンダーの準備」をすると「年の瀬」を感じるなんていう人もいるし、筆者の知り合いには「年の瀬といえば、アメ横だろう」などという人もいる。この人は恐らく毎年、大混雑した東京・上野のアメヤ横丁に新巻鮭でも買いに行くのだろう。

 ただし、競馬場やウインズ、競馬ファンが集まる酒場などで同じ質問をすれば、「何を今さら」という怪訝な顔をされたあとで、ほぼ同じ答えが返ってくる。もちろん、読者の方々も同様であろう。

「年の瀬? そんなもん、『有馬記念』に決まってんだろ!」

 さて、その「年の瀬」だが、そもそもどういう意味なのだろうか。調べてみると、語源は「川の瀬」だという。「川の瀬」というのは深い部分(「淵」)と対になる、川の浅い部分のこと。百人一首にある崇徳院の歌「瀬をはやみ〜」の「瀬」だ。川底が深い「淵」に比べて流れが速く、舟で渡るにしても徒歩で渡るにしても、かなり危険な場所である。

 なぜ年末が川の流れの速い危険な場所にたとえられるのかというと、これは江戸時代の売り掛け(ツケ)の習慣から来ているという。江戸時代、商品の売買や飲食店の支払いなどの多くは売り掛け、つまりツケがきいたという。そのツケの支払いは、年末(大晦日)までに支払っておく(ツケを払ってもらう側からすれば回収しておく)のが習わしだった。

 それほど裕福ではない江戸の町人たちにすれば、あっちにもこっちにもツケを支払っていたら、それこそ死活問題。すっかり払ってしまったら、それこそ新年のための生活費がままならない。しかし、払わないと借金取りが追いかけてくる。まさに、川の瀬を渡るような危うさだった。

 もちろん、ツケを回収する側にとっても死活問題だ。恐らく、仕入れの代金などもツケだっただろうから、仕入れ業者からツケを支払ってくれとプレッシャーがかかったはずだ。お客が代金(ツケ)を払ってくれなければ、店側にとっても死活問題。こちらも、川の瀬を渡るような危うさで年末を迎えていたに違いない。

 そんなこんなで、江戸時代の年末は毎年、ツケの支払いを巡って壮絶なバトルが繰り広げられていたという。

 さて、有馬記念である。こういっては失礼だが、今年一年、JRAという「お得意さん」にツケをしこたま溜め込まれ、回収できていない諸兄姉も多くいらっしゃるのではないだろうか。いや、かくいう筆者もそのひとり。ここはひとつご一緒に、年の瀬にしっかりとツケを回収しようではありませんか。もし大穴馬券でも取れた日には、ツケも一気に回収できるかもしれない。

 というわけで、前置きがすっかり長くなってしまったが、ここでは過去に有馬記念で大穴を開け、年の瀬の売掛金回収に一役買ってくれた歴代の馬たちを紹介していきたい。「穴馬」の定義が難しかったが、勝ち馬(1着馬)のなかから人気薄の馬を選んだ(連勝式の大穴馬券に貢献した2着馬は除外した)。「人気薄」の定義もまた難しかったが、便宜的に16頭の半分の8番人気以下とし、かつ、あまりに昔の馬は除外した。

 この基準で選ばれた穴馬は5頭。メジロデュレン、ダイユウサク、メジロパーマー、マツリダゴッホ、ゴールドアクターだ。年代の古い順に紹介していく。まずは、メジロデュレンから見ていくことにしよう。

 なお、念のために断っておくが、「有馬記念は『穴馬』が来る」などという大胆予想をしているわけではないことをご理解いただきたい。あくまでも過去の「穴馬」を紹介する読み物、そして有馬記念で大穴が出る際の馬券的教本として楽しんでいただければ幸いである。

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