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オリオンの一等星たち

オリオンの一等星たち

第2章

オリオンの一等星たち

競馬で学ぶ冬の星空

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 オリオン座には一等星が2つ含まれていて、いずれも中央競馬のレース名に採用されている。どちらもオープン特別競走で、星座自体より格上となっている。

 まずはオリオン座のアルファ星の名を冠したベテルギウスSから。

※星座ごとそれぞれの星にはアルファ星、ベータ星、ガンマ星……という符号が付与されており、考案者の名前より、バイエル符号と呼ばれる

 競馬の世界のベテルギウスSは長らく12月の中旬から下旬に行われる、年末の阪神競馬場の1ページとなっているレースだったが、2017年は12月28日、GI・ホープフルSの裏ではあるが中央競馬の最終日、阪神のメインレースにまで出世した(1章で述べたアルテミスからは時期的に離れてしまった)。ちなみにベテルギウスSの2016年の2着馬はその名もなんと「オリオンザジャパン」。勝っていれば見事な偶然だったが、勝ったのがのちの重賞勝ち馬・ミツバなので仕方のないところだろう(オリオンザジャパンは「彦星賞」を勝利しており、こちらは季節もまったく逆の、夏の夜空に輝くわし座のアルタイルのこと)。

 天文の方のベテルギウスは近年、ニュースなどでも爆発する爆発すると頻繁に騒がれている、ある意味ではもっともトレンドな星だ。オリオンの右肩(オリオンはこちらを向いている)に位置しており、冬の時季ならば砂時計の左上にあたる。赤系統の色をしており、「冬の大三角」の一つ。「冬のダイヤモンド」を結んだ六角形の、大雑把な中心に位置する。また、その色合いから日本では「平家星」(平氏の旗の色より)とも言われる。

 この「赤系統」の色が上述の「爆発する」に繋がる。ベテルギウスは恒星の進化段階の「赤色巨星」、さらにその中でも「赤色超巨星」と言われる。つまり恒星の一生のうち、年老いて膨張していく段階にあり、直径は太陽の1000倍とも言われる。この膨張が終わると、ベテルギウスは超新星爆発を起こし昼間でも見えるほど明るく輝くとされる。2011年にNASAが“ベテルギウスが超新星爆発に向かう兆候が観測された”との発表をして以来、「太陽が2つになる」「地球が滅亡する」など色々と騒がれているのを見たことがある人も多いだろう。

 もう一つのオリオンの一等星、リゲルはベテルギウスと対称の位置、つまり砂時計の右下にあたる星。“巨人の左足”という意味との説が広まっている。ちなみに競走馬レッドライジェルの「ライジェル」はこのリゲルのこと。オリオン座の中ではベータ星にあたるが、先ほども出てきたバイエル符号は必ずしも等級(天体の明るさの尺度)の大小と一致せず、リゲルはオリオン座で一番明るい星である。

オリオン座。左上の赤系統の星が上述のベテルギウス、対角線にある青白い星がリゲルだ 写真:片平孝/アフロ

 そんなリゲルだが、競馬においてはアルファ星のベテルギウスに遅れを取ること12年、2012年に「リゲルS」が創設された。こちらは珍しい芝の“天体レース名”だ。その星としての等級にもかかわらず競馬での歴史が浅いのは、これもベータ星が故か。ただし、レース名となる恒星名はアルファ星が最優先という訳でもないらしく、例えば秋の星座のペガスス座はイプシロン星(バイエル符号で言うところの5番目)であるエニフのみが何故か「エニフS」としてレース名になっている。

 しかしその歴史の浅さにもかかわらず、リゲルSはベテルギウスに負けず劣らず、これまで好メンバーの戦いが行われてきた。初代覇者ハナズゴールは後にオーストラリアでGI馬となり、ダッシングブレイズも重賞ホースになっている。ちなみに2013年にこのレースの2着となったレッドアリオンの由来となる「アリオン(=アレイオーン)」もオリオン同様、ギリシャ神話に由来する天馬の名前だが、これはどちらかというと夏のはくちょう座と関係のある固有名詞である。

 さて、空に輝く方のリゲルは、ベテルギウスの「平家星」同様、「源氏星」とも呼ばれる一等星。こちらはベテルギウスとは反対に、「冬のダイヤモンド」の一つではあるが、「冬の大三角」ではない。その名の通り青白くひときわ輝く星で、その光はオリオン座の中でさえも一際存在感を発揮している。その輝きの強さや、ベテルギウスとの対照的な色合いなどは、真冬の星空を見上げるときの醍醐味と言える。ぜひともそのオリオンの右肩の赤と左足の青白さまで意識して、この夜空の巨大な砂時計を観察してみてほしい。

 次の章からは、このオリオンをガイド役に星空をさらに探索していく。

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