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スタート前〜その日、香港には数々のタレントが顔を揃えた

スタート前〜その日、香港には数々のタレントが顔を揃えた

第0章

スタート前〜その日、香港には数々のタレントが顔を揃えた

モーリス ラストラン回想録

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 あくまで「手ごろな価格」だった1頭の幼駒が、グッドホースへ。やがて、その馬は国内No.1マイラーへと成長し───そして。

 2016年12月11日のシャティン競馬場には、例年以上に日本からの熱視線が集まっていた。エイシンヒカリ、ステファノス、クイーンズリング、ラブリーデイ…そして、モーリス。日本だけでなく世界でもトップクラスに君臨するであろう名馬たちが日本から遠征していた。

 それに呼応するように、オッズもモーリスの1番人気を筆頭に、上位4番人気までを日本馬が占めているという状況だった。それもそのはず───彼らは、世界で活躍してきた猛者たちだったのだから。

 2016年、ドバイワールドカップを制覇したのは、アメリカのカルフォルニアクロームという馬だった。2014年のアメリカ2冠馬であり、芝・ダート問わずGI勝利を収めている名馬である。その実績で、1年を間に挟んだ2014年と2016年の2度年度代表馬を獲得するという、非常に珍しい偉業を達成している。

 2度目の受賞を強く後押ししたのが、上述したドバイワールドカップでの勝利であり、その勝ちっぷりは彼をワールドサラブレッドランキングの暫定首位へと押し上げた。そして、そのワールドサラブレッドランキングの首位が入れ替わったのは5月末のこと───フランス・イスパーン賞のレース後だった。

 かわりに首位に躍り出たのは日本の逃げ馬・エイシンヒカリ。好メンバーが揃ったフランスの歴史あるGIを8馬身差で圧勝した実力に、世界からの注目が集まっていた。

 日本で2頭目となるワールドサラブレッドランキングの首位になったことだけでなく、その逃げっぷりの豪快さに、国内外でファンが急増。一躍、時の馬となった。そんな彼が香港カップに参戦。前年度の同レースを制覇していることもあり、地元香港での注目度は非常に高かった。

 香港実績といえば、そのほかの日本馬も同様である。ステファノスは前年度に香港のGI競走で2着、ラブリーデイは同年春の香港GIで4着と、遠征実績のある実力派が揃っていた。

 そして、何よりモーリスだ。すでに香港のGIで2勝しているモーリスは、当然のように注目の存在だった。しかし、それまであげていた2勝はどちらもマイル戦。「距離の対応はできるのか?」という声があがるのも当然だった。モーリスが2000m以上の距離で勝利したのは、前走の天皇賞(秋)のみ。ファンは、彼の血統や走法から、その適性を推し量るしかなかった。

 ここで勝利し、海外GIで3勝という称号を手に引退をするのか、それとも───。そのときにスポットがあたったのは、モーリスの牝系に流れる「メジロ血統」であり、モーリスが描いてきた成長曲線であった。それを紐解く前に、まずは本馬場入場を見守ろうと思う。

ブックス

2016年香港カップ入場

パドックでエイシンヒカリが放馬するというアクシデントもあったものの、コースに出ると各馬が集中を一段階深める。

強者揃いの香港カップ出走馬たちは、着々とゲートインを進めていった。

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